「EMDRが『効く』トラウマって、どんなものなんですか?」とのご質問を受けました。ですので、今日は、それについて改めて考えてみたいと思います。
皆さんは「トラウマ」と聞くと、どんなことをイメージされるでしょうか?「トラウマ」は、今では日常語としてもイージーに使われる言葉になりましたが、厳密には「私たちの対処能力を超えた圧倒されるような体験の結果として生じる心の傷」のことを指します。それらには、交通事故、虐待、自然災害、犯罪被害、戦争体験等が挙げられます。EMDRでは、これらを「大きなTトラウマ」としています。
EMDRは、そのような命にかかわるような酷烈な出来事だけではなく、「小さなtトラウマ」にも「効き目」をあらわします。では、「小さなt」とは、何でしょう?それは、命の危険に晒されはしませんが、日々、慢性的に継続されるストレスにより、その人の人格にまで深く傷つきを残すような出来事です。例えば、両親の不仲をずっと感じながら育った、家庭内の雰囲気のためにずっと「良い子」を演じていた、親からいつも否定されながら育った、幼い頃から親の愚痴聞き係だった(親子役割の逆転)、親の疾病等のため、十分な養育環境ではなかった、長期化したからかいやいじめの対象になっていた、上司に高圧的に叱責されるのが常態化していた、セクシャルハラスメントを受けていた等々です。ケースバイケースで、それこそ様々な「小さなt」の例が浮かび上がってくると思います。そのような長期的なトラウマは、傷つきやすい、些細なことに動揺しやすい、他者に過剰に気を遣う、自身を犠牲にして他者のことを過度に優先する、自己否定や無力感、孤立感に苛まれるなどの生きづらさを生みます。
EMDRは「大きなTトラウマ」だけでなく、「小さなtトラウマ」にもきわめて高い効果をあらわします。EMDRは、人が抱える様々な苦しみを掬い上げて、クライエント様の自己治癒力を引き出すことで癒しへと導く心理療法といえるでしょう。
参考文献:こころの臨床 アラカルト Vol18 No1 1999年 星和書店
こころのりんしょう アラカルト Vol27 No2 2008年 星和書店