クライエント様にとってのEMDRの大きなメリットは何でしょう。3つ挙げてみたいと思います。
まず、治療時間が短くて済むことです。EMDRでは、眼球運動などの生理作用を利用することで、トラウマ記憶を脱感作(苦痛な記憶による症状を軽減していく)していきます。また、脳内の否定的な記憶のネットワークが肯定的なネットワークと再結合することで、トラウマだった記憶に対して、新たな理解や意味づけができるようになります。EMDRは、脳の神経系に働きかけて、機能不全の状態で封じ込められている情報を変化させるため、急速な治療効果がみられるのです。ただ、幼少期から長期にわたる虐待経験がある場合などは、さしものEMDRと言えど、それなりの時間を必要とすることは知っておかなければなりません。いずれにしても、時間を短縮できるということは、経済的に利点なだけでなく、何より、人生の質の向上を早く実現させることになりますね。
次に、トラウマとなった辛い体験を詳細に語らなくても治療を進めることができることです。イメージを思い浮かべながら、あるいは、身体感覚に集中しながら眼球運動をすることで、外傷的な体験を再処理できるのです。クライエント様にとって、ストレスの少ない、優しい心理療法と言えるでしょう。
そして、最後に、人が本来持っている「自己治癒力」を活性化させる点を挙げたいと思います。私たちが元々持っているこの「力」をトラウマ記憶が阻害している時、EMDRでは「適応的情報処理」を促進することで回復させ、適応的な解決へと導きます。EMDRは、クライエント様の「自己治癒力」を引き出し、外傷的な体験を中立的な、さらに言えば、克服体験へと変える力を持っているのです。
参考文献：こころのりんしょう アラカルト Vol27 No2 2008年 星和書店
アンドリュー・リーズ(太田茂行 市井雅哉 監訳) EMDR標準プロトコル実践ガイドブック 臨床家,スーパーバイザー,コンサルタントのために 誠信書房 2019年